本書執筆の動機
本書は、新規事業の立ち上げを検討されている経営者の方々、あるいは企業の新規事業部門などで事業立ち上げに携わっているビジネスパーソンの方々を対象に、これからの新規事業立ち上げの考え方や実際に行う際の様々なノウハウを書き下ろしたものです。
私は年間50回以上、様々な企業や団体、大学にて、新規事業の立ち上げやアライアンス(事業提携)、営業推進などに関するセミナーや講演を行っています。また、実際に毎月30社以上の企業(およそ3分の1は上場企業、残り3分の2は業歴の長い中堅・中小企業)に対し、アライアンス活用を中心とした新規事業立ち上げのコンサルティングを継続して行っています。経営幹部層や新規事業担当者向けに研修を行うこともあります。この7年間でコンサルティングを行った社数は150社以上になります。
講演やコンサルティングを通じて痛感するのは、多くの経営者や現場の担当者の方々が「新規事業を立ち上げなくてはならないが、どのように推進したらよいかわからない。なかなか進まない」という悩みを持っておられることです。
もう少し具体的にお話すると、新規事業としてどういう方向に出ていけばいいのかわからない、新規事業のアイディアやネタがない、どのように事業構築をしていけばいいのか実際の手順がわからない、自社だけでは人材や資金が不足している、事業計画書を作成しなければならないが経験がない、社内で反対意見や抵抗などがあって困っている、新製品開発に取り組んでいるがなかなか売上につながらない、など様々な課題をお持ちです。
そこで、そういったお悩みに少しでもお答えし、実際に新規事業に取り組んでいくにあたって必要となる知識やノウハウを実践的な書籍として取りまとめることにしました。
とりわけ、私は普段、〝アライアンスの専門家〟として、アライアンスによる新規事業立ち上げや売上アップに取り組んでいますので、このアライアンスに関する実践的な知識と活用の仕方について、みなさんにお伝えしたいと思いました。
アライアンスは、もともと日本人が苦手な領域・手法です。しかし、企業は規模の大小にかかわらず、新規事業構築に必要となる経営資源を1社だけでまかなうことは難しいため、他社とのアライアンスで相互補完していくことが必要となります。また、売上拡大においても、1社だけで活動しているときには得られなかった売上・利益を、アライアンスを行うことによって得ることができます。〝ツール〟としてのアライアンスの有用性は、私が講演やコンサルティングで最も強調していることです。アライアンスに関する実践的な解説書も不足しているため、本書にて、そのノウハウをみなさんにお伝えできたらと考えました。
以上が今回の出版の経緯です
新規事業立ち上げに必要な内容を網羅
企業は環境の変化に対応しながら、次なる収益源を作るために、今これからの時代、常に3~5年ごとに新規事業を立ち上げ続けることが存続のカギになります。新規事業立ち上げは、新しいビジネスを作り出すわけですから、多方面にわたる様々なノウハウが必要となります。
しかし、企業にお勤めをされている方の場合、そういった新規事業立ち上げのノウハウを体系的に身につけていくことは難しいです。幸い、私はこれまでベンチャーキャピタリストや経営コンサルタントとして、数多くの新規事業立ち上げに携わり、成功・失敗の両方を含む、多くの実践経験を積むことができました。そこから学び、蓄積したノウハウを本書に集約して書きました。さらには、起業家養成を目的とした大学院での専任講師の経験に加え、昨今の欧米経営理論の中から実際に新規事業立ち上げに役立つものを探索し、それを実践で使えるように噛み砕いて、盛り込むこともしました。
新規事業立ち上げに関する書籍はすでにいくつかありますが、その多くが事業計画書の書き方に関するものとなっています、本書は、事業計画書作成やマーケティング、財務といった知識については最低限身につけるべきものをカバーするにとどめ、新しい事業を作り出すにあたっての実践的なスキルを得られる内容をメインとしています。一例としては、「始める前に撤収条件を決めておく」といった実際の会社運営に配慮したテクニックも盛り込んでいます。その他、新規事業の成功には、最後の営業力強化が重要ですので、営業に関する事項も含めるとともに、組織内における抵抗や調整の問題などをクリアーする手法についても解説しました。
本書を読めば、業歴や既存の枠組みがある日本企業において、実際に新規事業立ち上げ(起業も一部含む)を行うにあたって必要となる知識や問題解決のためのヒント、具体的に推進するにあたってのテクニックなどが豊富に得られるようになっています。新規事業立ち上げに必要な項目が網羅されており、まさに、『新規事業立ち上げの教科書』となっています。
新規事業立ち上げは、ビジネスリーダーになるために最強のスキル
多くの日本企業が、環境変化の中で次の時代の新しい収益源を探そうとしている中、新規事業を立ち上げられる人材のニーズが高まっています。新規事業のネタを発見・創造し、そして、それを実際の事業として構築して、新しい売上に結びつけられる人は、どこの会社にとっても貴重な求められる人材です。新規事業立ち上げのノウハウを身につければ、会社での評価を高めることができます。また、他の会社からスカウトされて、よりよい条件で転職することも可能となります。さらには、起業して、自分の会社を経営することもできるでしょう。
つまり、新規事業立ち上げのノウハウは、これからビジネスパーソンが生き抜いていくために必須のスキルです。大手企業においても、自分で新しい事業を立ち上げて成果を出した方が役員クラスにまで出世されています。自分で新しい事業を創っていくことができなければ、ビジネスリーダーになれないわけです。逆に、一度身につければ、これからの時代、恐いものなしの最強のスキルだと言えます。
ぜひ、一人でも多くの方が、本書の内容を身につけ、ビジネスリーダーとなる切符を得て、新規事業立ち上げに成功することを心から願っています。そして、それが日本企業の発展、ひいては日本経済の活性化に寄与することになれば、望外の喜びです。
2014年7月吉日 外苑前の青山通りのオフィスにて 冨田 賢