これまで、このコラムでは、新規事業立ち上げの方向性や戦略、事業構築における留意点について書いてきました。
今回は、新規事業を立ち上げようとする際の資金投入の仕方について、解説したいと思います。
これは、第6回 「新規事業立ち上げは、まずはちょっとやってみて、方向転換を細かく速く!」とも関係しています。
第6回 ⇒ http://www.tcconsulting.co.jp/archives/4253
ベンチャーキャピタルの投資理論の応用!
ベンチャーキャピタルは、米国での半世紀の歴史、日本でも四半世紀以上の歴史を持っており、その中で、「分散投資」(大数の法則によるもの)と「マイルストーン投資」という2つの投資手法を実務的にも研究面でも生み出してきています。
私はもともと独立系ベンチャーキャピタルの創業メンバーとして、ベンチャーキャピタリストとしてベンチャー企業への投資を行っており、また、大阪市立大学大学院・専任講師として、「ベンチャーキャピタル論」を研究していましたので、それらを新規事業立ち上げにおける資金投入に応用させています。
これは、私がかつて大阪市立大学大学院・専任講師時代に、梅田コンソーシアムなどでのコーポレート・ベンチャーリング講座でも、大企業の新規事業部門の方々向けに講義をしていた内容となります。また、現在、コンサルティングの現場やセミナー講演などでもお話させていただいています。
冨田賢のプロフィール ⇒ http://www.tcconsulting.co.jp/profile
1つの案件だけでなく、まずは、複数に「分散投資」をする!
新規事業に投入できる余剰資金が1000万円あるとして、それを、ある一つの案件Xに全額投入してしまうことは、リスク分散ができないので、間違った考え方となります。
オーナー社長の方は、過去の成功体験があるがゆえに、そのような投資行動を取りがちです。
まずは、5つくらいに分散投資をします。(ベンチャーキャピタルの投資理論では、ポートフォリオ理論による分散投資効果ではなく、単純な大数の法則による分散投資効果となります。)
つまり、新規事業に使える資金1000万円を、5件に、200万円ずつに分けて投入していくわけです。
新規事業のプロジェクト数でも、その他、営業展開の営業手法であっても、打ち手の数を多くして、まずは分散することが必須です。
実際、新規事業の案件として取り組む際、中小企業の場合、5つの案件を並行して行うことはなかなか難しい面もありますので、最低、3つくらいに分散させるとよいでしょう。
段階的な資金投入「マイルストーン投資」の原則
次に、その各案件に割り振った200万円(1000万円を5件に分散した場合)も、一度に、全部使ってしまわずに、まずは、案件ごとに、50万円ずつ使ってみます。
そうすると、うまくいくかいかないかわかります。全く何もやっていない状態では、うまく行くか行かないか、わからないですが、ちょっとでも少しやってみるとうまく行くか行かないかがわかります。
そして、たとえば、案件Aは、50万円を使ってみて、うまく行っていれば、さらに残りの150万円も投入する、案件Bは、50万円を使ってみて、うまく行かなければ、資金投入は50万円でストップします。
その後は、案件Aが、200万円を使っても、さらにうまく行っているようであれば、案件Bで使わなかった残りの150万円も、案件Aに振り向けて投入します。そうすると、うまく行っている案件Aへの資金投入額が350万円ということになります。
このように、うまく行っていれば追加で資金投入を行い、うまく行っていなければ、その段階までの資金投入だけに留めることで、結果として、うまく行っている案件への投資残高が積み上がる形となります。
これが、いわゆる「マイルストーン投資(Milestone Investment)」です。マイルストーン=一里塚を建てるように、基準を設けて、段階的に投資を行っていくやり方です。
Staged Investmentとも呼ばれ、私が訳者代表として翻訳出版した『ベンチャーキャピタル・サイクル ~ファンド設立から投資回収までの本質的理解』(シュプリンガーフェアラーク東京、2002年)にて、「段階的資金投入」と訳しています。
ビジネスでは、まずはちょっとやってみないと、うまく行くかどうかわからないわけですが、このような「マイルストーン投資」の手法を用いることで、うまく行っている案件、打ち手への投資額を伸ばすことが合理的に行えます。
新規事業立ち上げにおいても、投資理論を踏まえることが大切!
投資理論に基づかずに、あてずっぽでやると、たまに当たることもあるかもしれませんが、中長期的には適切な投資リターンを得られません。
投資理論に基づくことで中長期的に確実な成果を上げることができます。
新規事業立ち上げにおける資金投入においても、まずは、複数の選択肢を考えて、いくつかの案件・打ち手に「分散投資」をします。その上で、段階的に資金を投入する「マイルストーン投資」をきちんと行うことが大切です。
実務的には、ベンチャーキャピタル・ファンドの運用と同じようには、新規事業立ち上げにおいては、正確には実行ができない面もありますが、このような考え方をしっかり頭に置いて、新規事業立ち上げを進めていくことで、失敗を減らし、成功確率を上げることができます。
以上、今回は、新規事業立ち上げにおける資金投入において、ベンチャーキャピタルの投資理論を応用させることの大切さについて、書かせていただきました!
今後も、2週間に1回のペースで、新規事業立ち上げや売上アップに役立つノウハウをご紹介させていただきます!
★このコラムを読んだ感想やご質問、お問い合わせは、お気軽に、私、冨田賢までお寄せください。tomita@tcconsulting.co.jp 皆様からのコメント、お待ちしております♪
★私の日頃の活動状況は、Facebookに掲載しています!
⇒ https://www.facebook.com/tctomita
★継続的にセミナー講演を行っています。お気軽にご参加を!
⇒ http://www.tcconsulting.co.jp/seminer
では、次回も、このコラムをよろしくお願いします♪
2013年12月12日に連載